
第26話『はじめての処方』
――正解のない机の前で―― その人が帰ったあと、 店の奥は、しんと静まり返った。 椅子は、まだ温もりを残している。 こつめは、 しばらくその椅子を見つめてから、 ゆっくり机に向かった。 正解のない時間 引き出しを開ける。 […]
2026年2月14日
その他
第25話『それでも、話を聞く』
――あなたでいいから、と言われて―― その人は、 見覚えのある顔だった。 何度か、 扉の前まで来ては帰っていった人。 「……おばあちゃん先生は?」 もう、迷わなかった。 「すみません。 祖母は、亡くなりました」 その言 […]
2026年1月28日
その他
第24話『扉の向こうの沈黙』
――おばあちゃんを待つ人たち―― 開店から、ひと月 開店してから、 ひと月ほどが過ぎた。 お薬本舗 モリグチビッグ。 看板は出ている。 棚も整っている。 当帰の瓶も、決まった場所に収まっている。 それでも、 こつめの胸は […]
2026年1月11日
その他
第23話『瓦礫の中の希望 ―名を名乗る日―』
朝の光が、店の奥まで差し込んでいた。 昨日までの慌ただしさが嘘のように、 古い薬屋は静かだった。 床にはまだ修繕の名残があり、 壁際には工具箱。 棚は――まっすぐ立っている。 こつめは、その前に立ち、しばらく何もせずに眺 […]
2025年12月14日
その他
第22話『崩れかけた棚と、ひとつの生薬』
最終決定日の朝。 こつめは冷たい洗面台の前で、自分の顔を見つめた。 眠れなかった目の下に、濃いクマが浮かんでいる。 今日、すべてが決まる。 店に入ると、崩れかけた薬棚が静かに傾いていた。 そっと手を添えると、カタリと揺れ […]
2025年12月6日
その他
第21話『迷いの灯 ―成人期の幕開け―』
守口市に戻って三日が過ぎた。 おばあちゃんの家は、記憶よりもずっと重く沈んで見えた。 扉を開けるたび、古い木の軋む音が胸の奥まで響く。 何度深呼吸しても、 うまく息が入らない。 それでもこつめは、 “守りたい” という一 […]
2025年11月24日
その他
第20話『別れの処方箋 ―師弟の約束―』
京都の朝は、少し肌寒かった。 店に差し込む光は淡く、雨上がりの匂いがまだ微かに残っている。 こつめは調剤台の布をしぼりながら、 昨日の柊さんのことを思い返していた。 暗い紫を帯びた舌。 かすれた声。 「……いっそ、楽にな […]
2025年11月15日
その他
第19話『黒豹の眼差し ―瘀血の学び―』
京都の午後。 雨上がりの光が、薬棚の瓶に柔らかく反射していた。 こつめは調剤台を拭きながら、 湯気のように漂う生薬の香りに、師匠の声を思い出していた。 ――人をよう見なさい。体だけやのうて、心もや。 引き戸の鈴が、かすか […]
2025年11月8日
その他
第18話『ひとりで立つ日 ―陽虚の学び―』
朝の京都。 冬の名残を残す冷たい風が、商店街ののれんを揺らしていた。 「今日は私、町内の会合で出るからな」 師匠は白衣の袖を整えながら言った。 「こつめ君、今日は一日、店を任せる」 「えっ……ぼ、僕ひとりで?」 「大丈夫 […]
2025年10月25日
その他
第17話『窓辺の京都から ―陰虚の学び―』
初夏の風が、窓辺の暖簾をやさしく揺らしていた。 こつめ青年は、すり鉢を片手に薬草をすり合わせながら、 その音のリズムで自分の呼吸を整えていた。 師匠に教わった「気虚」の学びから、まだ日も浅い。 それでも、患者の表情や声の […]
2025年10月20日
その他

