第3話『湯気のむこうの決意』

漢方小説

「さあ今日は、煎じるとこまでやってみぃ。」

おばあちゃんが差し出したのは、土瓶と小さな火鉢。

こつめ少年の目がぱちくりと大きくなる。

「ボクが!?」

「自分の手でやってこそ、ほんまの“漢方好き”になるんやで。」

緊張した面持ちで薬草を量り、水を入れ、火にかける。

しばらくすると、ポコポコと湯気が立ちのぼってきた。

もわぁっと鼻に届く香り。苦くて、あったかくて、

なんだか胸の奥がジンとするような…

「これが…煎じるってことか…」

…その時だった。

ゴボゴボッ!ボフッ!

「あ゛っっっ!!」

鍋から泡が吹きこぼれ、火鉢に湯がかかって小さく煙が上がる。

おばあちゃんがすかさずタオルで押さえる。

「急に強火にしたらあかんて言うたやろ〜!」

「ご、ごめんなさいっ!!」

しゅんとするこつめに、おばあちゃんは笑って言った。

「だれでも最初は、失敗するんや。

でもな、火の加減ひとつで“効き方”が変わる。

それが“漢方の深み”っちゅうもんや。」

湯気の向こうで、こつめ少年はこくんと小さくうなずいた。

「ボク……もっと知りたい。ちゃんとできるようになりたい。」

あの時の湯気は、ただの蒸気じゃなかった。

小さなカワウソの中に芽生えた――

“決意”という名前の、目に見えない力だったのです。

【つづく】

次回予告タイトル:

第4話『あんたの体質、冷えやな』

こつめ少年、おばあちゃんに“体質”という言葉を教わる!