「さあ今日は、煎じるとこまでやってみぃ。」
おばあちゃんが差し出したのは、土瓶と小さな火鉢。
こつめ少年の目がぱちくりと大きくなる。
「ボクが!?」
「自分の手でやってこそ、ほんまの“漢方好き”になるんやで。」
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緊張した面持ちで薬草を量り、水を入れ、火にかける。
しばらくすると、ポコポコと湯気が立ちのぼってきた。
もわぁっと鼻に届く香り。苦くて、あったかくて、
なんだか胸の奥がジンとするような…
「これが…煎じるってことか…」
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…その時だった。
ゴボゴボッ!ボフッ!
「あ゛っっっ!!」
鍋から泡が吹きこぼれ、火鉢に湯がかかって小さく煙が上がる。
おばあちゃんがすかさずタオルで押さえる。
「急に強火にしたらあかんて言うたやろ〜!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
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しゅんとするこつめに、おばあちゃんは笑って言った。
「だれでも最初は、失敗するんや。
でもな、火の加減ひとつで“効き方”が変わる。
それが“漢方の深み”っちゅうもんや。」
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湯気の向こうで、こつめ少年はこくんと小さくうなずいた。
「ボク……もっと知りたい。ちゃんとできるようになりたい。」
あの時の湯気は、ただの蒸気じゃなかった。
小さなカワウソの中に芽生えた――
“決意”という名前の、目に見えない力だったのです。
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【つづく】
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次回予告タイトル:
第4話『あんたの体質、冷えやな』
こつめ少年、おばあちゃんに“体質”という言葉を教わる!