

第16話『修行の日々 ―気虚の学び―』
春の光が差し込む京都の町並み。 その一角にある古びた漢方薬局の引き戸を、こつめ青年は両手で押した。 「今日からよろしくお願いします」 深々と頭を下げる。 先日偶然立ち寄ったこの店に、正式に勤めることになったのだ。 奥から […]
2025年10月4日
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第15話『転職の決意』
「こつめ君、今月の数字、まだ目標に届いてないぞ」 営業所の会議室。 グラフと数字を並べた資料を前に、上司の声が響いた。 「抗生物質は横ばいや。もっと処方を取れるように働きかけんと」 言葉は理解できても、胸の奥は冷えていく […]
2025年9月20日
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第14話『数字の向こうに』
営業所に戻ると、机の上には報告書の山が待っていた。 今日訪問した病院名、担当医、面談時間、そして――処方数。 パソコンの画面には棒グラフが並び、赤い線が「目標」を示している。 「ここを越えんと、評価はされへんぞ」 先輩が […]
2025年9月6日
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第13話『初めての処方箋』
大学を卒業して、ぼくはある製薬メーカーに就職した。 配属先は“病院まわり”を担当する営業、いわゆるMR。 新しい肩書きにまだ慣れないまま、研修を終えて初めて現場に出る日が来た。 「本日から病院まわりに出てもらうからな」 […]
2025年8月29日
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第12話『道に迷う日、心に迷う日』
大学の講義室。 周りの席からは「国家試験」「内定」「研修」…そんな単語ばかりが飛び交っていた。 みんな、もう“どこで何をするか”を決めているようやった。 ぼくはノートの端に、また薬草の名前を書いていた。 シャクヤク、カン […]
2025年8月9日
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第11話『バイクで走る風の中で』
梅田のネオンが、まだ青白く瞬く夜明け前。 バイクのエンジンをかけると、冬の空気が肺の奥まで刺さった。 守口から天満橋、北浜へ。 ビルの間を抜ける風が、目を覚まさせる。 大学進学を目前に、胸はまだ定まらないままやった。 友 […]
2025年8月2日
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第10話『さよなら、おばあちゃん』
「こつめ、ちょっと来てくれるか?」 そう言われて、ぼくは薬棚の整理を途中でやめた。 いつもの声。いつもの調子。でも、何かが違った。 縁側に、おばあちゃんが座っていた。 畳に映る影が、いつもより細くて、頼りない。 「こつめ […]
2025年7月26日
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第9話『“漢方家”ってどんなひと?』
「こつめ、ちょっとこっち来て手ぇ貸して。」 店の奥で、おばあちゃんが漢方棚の引き出しを一つずつ開けながら、何かを探していた。 「今日はな、昔のお客さんが久しぶりに来はるんよ。ちょっと特別な調合や。」 ここは、大阪の下町に […]
2025年7月13日
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第8話『あんたの“血”、ちゃんとめぐってる?』
その日は雨上がりの午後やった。 湿った風が流れこむ店の奥で、こつめ少年は棚の整理をしていた。 「おばあちゃん、お湯わいたでー」 返事がない。 ⸻ 奥の間に目を向けると、おばあちゃんが椅子に腰かけ、 胸を押さえて静かに目を […]
2025年7月5日
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第7話『薬の名前って、むずかしい?』
「……かっこんとう。ほちゅう…えっきとう。あれ? なんやったっけ?」 こつめ少年は、棚の前で首をかしげていた。 漢方の袋には、漢字ばかりの難しそうな名前がずらり。 どれがどれやら、さっぱりわからなくなってきた。 「おばあ […]
2025年6月29日
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