梅田のネオンが、まだ青白く瞬く夜明け前。
バイクのエンジンをかけると、冬の空気が肺の奥まで刺さった。
守口から天満橋、北浜へ。
ビルの間を抜ける風が、目を覚まさせる。
大学進学を目前に、胸はまだ定まらないままやった。
友達は夢や資格の話で盛り上がってる。
けど、ぼくの心は信号待ちみたいに青にならへん。
交差点の赤信号で、ミラーに映った自分の顔に小さく笑った。
「……どこに向かってんねやろな」
その声はヘルメットの中で消えた。
御堂筋を外れて南へ。
偶然見つけた細い路地に、小さな木の看板が立っていた。
「薬草園 →」
なぜか、体が勝手にハンドルを切った。
園内は都会の喧騒から切り離された静けさ。
冬越しの薬草が、冷たい風に揺れている。
足元に残るハハコグサの黄色が、やけに目に残った。
その瞬間、おばあちゃんの声が響く。
「こつめ、道に迷ったら足元を見ぃ。芽が出とるはずや」
都会の空気の中でも、確かに芽はそこにあった。
答えはまだ見えへん。
けど、この街と、この風と、この匂いがあれば、きっと進める。
再びバイクを起こし、ネオンの残り香へ走り出す。
大阪の風が、さっきより少しだけあたたかかった。
[つづく]
▶︎ 第12話『道に迷う日、心に迷う日』