第11話『バイクで走る風の中で』

漢方小説

梅田のネオンが、まだ青白く瞬く夜明け前。

バイクのエンジンをかけると、冬の空気が肺の奥まで刺さった。

守口から天満橋、北浜へ。

ビルの間を抜ける風が、目を覚まさせる。

大学進学を目前に、胸はまだ定まらないままやった。

友達は夢や資格の話で盛り上がってる。

けど、ぼくの心は信号待ちみたいに青にならへん。

交差点の赤信号で、ミラーに映った自分の顔に小さく笑った。

「……どこに向かってんねやろな」

その声はヘルメットの中で消えた。

御堂筋を外れて南へ。

偶然見つけた細い路地に、小さな木の看板が立っていた。

「薬草園 →」

なぜか、体が勝手にハンドルを切った。

園内は都会の喧騒から切り離された静けさ。

冬越しの薬草が、冷たい風に揺れている。

足元に残るハハコグサの黄色が、やけに目に残った。

その瞬間、おばあちゃんの声が響く。

「こつめ、道に迷ったら足元を見ぃ。芽が出とるはずや」

都会の空気の中でも、確かに芽はそこにあった。

答えはまだ見えへん。

けど、この街と、この風と、この匂いがあれば、きっと進める。

再びバイクを起こし、ネオンの残り香へ走り出す。

大阪の風が、さっきより少しだけあたたかかった。

[つづく]

▶︎ 第12話『道に迷う日、心に迷う日』