冬の朝。
こつめ少年はマフラーに顔をうずめ、指先をこすりながら薬棚の隅で丸くなっていた。
「さぶ…さぶすぎる……」
火鉢に手を伸ばしても、足の先からはじんわり冷えが上がってくる。
湯気の立つ薬湯がそばにあるのに、いまいち身体はあったまらない。
それを見たおばあちゃんが、湯呑みを差し出しながらつぶやく。
「…あんた、それ、“体質”やな。」
「たいしつ…?風邪ちゃうん?」
「ちゃうちゃう。風邪は“病気”。でも体質は“くせ”みたいなもんや。」
こつめは首をかしげながら、湯をすする。
ほんのり甘い、当帰の香りが鼻に抜けた。
「人にはな、“陽”が強い子もおれば、“陰”が足りん子もおる。
あんたは冷えやすい“陽虚”のタイプや。内側の火力がちょっと弱いんや。」
火力。
それは初めて聞くような言葉だったけど、なぜかすとんと胸に落ちた。
「ワシ、火力がないんや……」
「せやけどな、火は育てられるで。」
おばあちゃんは、そう言って笑った。
その夜、こつめは火鉢の前でひとり座りながら考えていた。
“病気じゃないのに、しんどいこと”がある。
“生まれもったくせ”にも、薬は寄り添える。
漢方って、ただの風邪薬ちゃうんや――
“体の声を聴く”ものなんや。
冷たい指先の奥に、小さな火種が灯るような気がした。
【つづく】
次回予告タイトル:
第5話『おまえはどんな“気”をしてる?』
こつめ少年、“気虚”という言葉と出会う。