第4話『あんたの体質、冷えやな』

漢方小説

冬の朝。

こつめ少年はマフラーに顔をうずめ、指先をこすりながら薬棚の隅で丸くなっていた。

「さぶ…さぶすぎる……」

火鉢に手を伸ばしても、足の先からはじんわり冷えが上がってくる。

湯気の立つ薬湯がそばにあるのに、いまいち身体はあったまらない。

それを見たおばあちゃんが、湯呑みを差し出しながらつぶやく。

「…あんた、それ、“体質”やな。」

「たいしつ…?風邪ちゃうん?」

「ちゃうちゃう。風邪は“病気”。でも体質は“くせ”みたいなもんや。」

こつめは首をかしげながら、湯をすする。

ほんのり甘い、当帰の香りが鼻に抜けた。

「人にはな、“陽”が強い子もおれば、“陰”が足りん子もおる。

あんたは冷えやすい“陽虚”のタイプや。内側の火力がちょっと弱いんや。」

火力。

それは初めて聞くような言葉だったけど、なぜかすとんと胸に落ちた。

「ワシ、火力がないんや……」

「せやけどな、火は育てられるで。」

おばあちゃんは、そう言って笑った。

その夜、こつめは火鉢の前でひとり座りながら考えていた。

“病気じゃないのに、しんどいこと”がある。

“生まれもったくせ”にも、薬は寄り添える。

漢方って、ただの風邪薬ちゃうんや――

“体の声を聴く”ものなんや。

冷たい指先の奥に、小さな火種が灯るような気がした。

【つづく】

次回予告タイトル:

第5話『おまえはどんな“気”をしてる?』

こつめ少年、“気虚”という言葉と出会う。