春のはじまり。
朝はまだひんやりするけれど、昼になるとぽかぽかと陽射しが差し込む。
だけど、こつめ少年の表情は、いまひとつ冴えない。
「……なんか、しんどいんや。」
熱もない。咳も出ない。風邪じゃなさそう。
でも、朝からぼーっとして、ご飯もあまり進まない。
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「おばあちゃん、ワシ、なんか…やる気が出えへん。」
こつめの訴えに、おばあちゃんはうなずいて言った。
「それはな、“気”が足りてへんのや。」
「……気?」
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「人にはな、“気”いうもんが流れてる。
元気、やる気、食べる気。気が足りんと、全部がどんよりすんねん。」
こつめは湯飲みを両手で包みながら、首をかしげた。
「ほなボク、“気”が漏れとるんかな…」
「ちゃうちゃう、“気虚”や。もともと体の“気”が弱いタイプやねん。」
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“気虚”――それはこつめが初めて耳にした言葉。
「じゃあ…気を補えば、元気になれるん?」
「そや。“補気”いうんや。あんたには**補中益気湯(ほちゅうえっきとう)**なんかが合うかもしれんな。」
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その日から、こつめ少年は“気”という見えないものを意識し始めた。
目には見えないけれど、
気があると、笑える。食べられる。歩ける。動ける。
“気”は、生きる力そのものや――。
まだ幼い彼の心に、ひとつ“気”づきが芽生えた春の一日でした。
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【つづく】
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▶ 次回予告タイトル:
第6話『補中益気湯ってどんな味?』
こつめ少年、はじめての“補気の漢方”にチャレンジ!