第5話『おまえはどんな“気”をしてる?』

漢方小説

春のはじまり。

朝はまだひんやりするけれど、昼になるとぽかぽかと陽射しが差し込む。

だけど、こつめ少年の表情は、いまひとつ冴えない。

「……なんか、しんどいんや。」

熱もない。咳も出ない。風邪じゃなさそう。

でも、朝からぼーっとして、ご飯もあまり進まない。

「おばあちゃん、ワシ、なんか…やる気が出えへん。」

こつめの訴えに、おばあちゃんはうなずいて言った。

「それはな、“気”が足りてへんのや。」

「……気?」

「人にはな、“気”いうもんが流れてる。

元気、やる気、食べる気。気が足りんと、全部がどんよりすんねん。」

こつめは湯飲みを両手で包みながら、首をかしげた。

「ほなボク、“気”が漏れとるんかな…」

「ちゃうちゃう、“気虚”や。もともと体の“気”が弱いタイプやねん。」

“気虚”――それはこつめが初めて耳にした言葉。

「じゃあ…気を補えば、元気になれるん?」

「そや。“補気”いうんや。あんたには**補中益気湯(ほちゅうえっきとう)**なんかが合うかもしれんな。」

その日から、こつめ少年は“気”という見えないものを意識し始めた。

目には見えないけれど、

気があると、笑える。食べられる。歩ける。動ける。

“気”は、生きる力そのものや――。

まだ幼い彼の心に、ひとつ“気”づきが芽生えた春の一日でした。

【つづく】

▶ 次回予告タイトル:

第6話『補中益気湯ってどんな味?』

こつめ少年、はじめての“補気の漢方”にチャレンジ!