第6話『補中益気湯ってどんな味?』

漢方小説

「今日はこれ、煎じてみぃ。」

おばあちゃんが差し出したのは、茶色い紙袋。

中には何種類もの草や根っこ、実のようなものがぎっしり入っていた。

「これが…“ほちゅうえっきとう”ってやつか。」

火鉢の上で煎じ始めると、

湯気とともにふわっと、ほんのり甘くてちょっと薬っぽい香りが立ちのぼる。

「おぉ…なんや、ええにおいやん。」

「せやろ?“補中益気湯”はな、“胃腸の火力”を元気にしてくれる薬や。」

できあがった液体は、少しとろみのある琥珀色。

こつめはおそるおそる一口、すすってみた。

「…ん?」

「どや?」

「……なんか、土の味と、シロップの中間みたいな……変な味やけど、悪ない。」

「そや。ちょっとクセはあるけど、これが“気”を養う味や。」

「気を…養う、かぁ。」

こつめ少年は湯飲みを両手で包みながら、

身体の奥がぽっとあったかくなるのを感じていた。

「薬はな、“効く”ことより、“続けられるか”が大事なんやで。」

おばあちゃんの言葉に、こつめはちいさくうなずいた。

「ボク、なんか…毎日飲んでみたくなってきたわ。」

“補う”ということ。

それは、自分に足りないものを知って、受け入れて、

ちゃんと育てようとする姿勢のこと。

こつめ少年の中に、少しずつ**“漢方のこころ”**が芽吹いていく。

【つづく】

▶ 次回予告タイトル:

第7話『薬の名前って、むずかしい?』

こつめ少年、葛根湯と補中益気湯の違いに頭を悩ませる!