「今日はこれ、煎じてみぃ。」
おばあちゃんが差し出したのは、茶色い紙袋。
中には何種類もの草や根っこ、実のようなものがぎっしり入っていた。
「これが…“ほちゅうえっきとう”ってやつか。」
火鉢の上で煎じ始めると、
湯気とともにふわっと、ほんのり甘くてちょっと薬っぽい香りが立ちのぼる。
「おぉ…なんや、ええにおいやん。」
「せやろ?“補中益気湯”はな、“胃腸の火力”を元気にしてくれる薬や。」
できあがった液体は、少しとろみのある琥珀色。
こつめはおそるおそる一口、すすってみた。
「…ん?」
「どや?」
「……なんか、土の味と、シロップの中間みたいな……変な味やけど、悪ない。」
「そや。ちょっとクセはあるけど、これが“気”を養う味や。」
「気を…養う、かぁ。」
こつめ少年は湯飲みを両手で包みながら、
身体の奥がぽっとあったかくなるのを感じていた。
「薬はな、“効く”ことより、“続けられるか”が大事なんやで。」
おばあちゃんの言葉に、こつめはちいさくうなずいた。
「ボク、なんか…毎日飲んでみたくなってきたわ。」
“補う”ということ。
それは、自分に足りないものを知って、受け入れて、
ちゃんと育てようとする姿勢のこと。
こつめ少年の中に、少しずつ**“漢方のこころ”**が芽吹いていく。
【つづく】
▶ 次回予告タイトル:
第7話『薬の名前って、むずかしい?』
こつめ少年、葛根湯と補中益気湯の違いに頭を悩ませる!