大学の講義室。
周りの席からは「国家試験」「内定」「研修」…そんな単語ばかりが飛び交っていた。
みんな、もう“どこで何をするか”を決めているようやった。
ぼくはノートの端に、また薬草の名前を書いていた。
シャクヤク、カンゾウ、ケイヒ…。
授業内容とは全然関係ない。
放課後、友人に誘われて病院近くのカフェでバイトに入った。
その店には、白衣姿の医師や薬剤師、患者の付き添いらしき人がよく来る。
カウンター越しにコーヒーを渡すと、ある男性客が笑いながら言った。
「これ、病棟の休憩より落ち着くわ」
その言葉に、ちょっと心が引っかかった。
“病院で働く”って、どんな毎日なんやろ。
帰り道、夕暮れの総合病院の前を通った。
ガラス越しに見える待合室には、年配の夫婦や仕事帰りの人たちが座っている。
一人ひとりに、それぞれの事情がある。
けど、外から見ているぼくには、何もわからない。
「もっと近くで見てみたい」
そんな気持ちが、初めてはっきり形になった。
まだ答えは出ないけど――
あの病院のドアの向こう側に、自分の次の道があるような気がした。
[つづく]
▶︎ 第13話『初めての処方箋』
(新人MRこつめ、病院で初めて漢方を提案する)