第12話『道に迷う日、心に迷う日』

漢方小説

大学の講義室。

周りの席からは「国家試験」「内定」「研修」…そんな単語ばかりが飛び交っていた。

みんな、もう“どこで何をするか”を決めているようやった。

ぼくはノートの端に、また薬草の名前を書いていた。

シャクヤク、カンゾウ、ケイヒ…。

授業内容とは全然関係ない。

放課後、友人に誘われて病院近くのカフェでバイトに入った。

その店には、白衣姿の医師や薬剤師、患者の付き添いらしき人がよく来る。

カウンター越しにコーヒーを渡すと、ある男性客が笑いながら言った。

「これ、病棟の休憩より落ち着くわ」

その言葉に、ちょっと心が引っかかった。

“病院で働く”って、どんな毎日なんやろ。

帰り道、夕暮れの総合病院の前を通った。

ガラス越しに見える待合室には、年配の夫婦や仕事帰りの人たちが座っている。

一人ひとりに、それぞれの事情がある。

けど、外から見ているぼくには、何もわからない。

「もっと近くで見てみたい」

そんな気持ちが、初めてはっきり形になった。

まだ答えは出ないけど――

あの病院のドアの向こう側に、自分の次の道があるような気がした。

[つづく]

▶︎ 第13話『初めての処方箋』

(新人MRこつめ、病院で初めて漢方を提案する)