漢方小説

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第16話『修行の日々 ―気虚の学び―』

京都での修行が始まったこつめ青年。師匠の穏やかな眼差しのもと、初めて出会った「気虚」の患者。補中益気湯の処方を通じて、“風船のような脈”が示す心と体の虚を学ぶ――。漢方家としての第一歩を描く第16話。
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第15話『転職の決意』

「こつめ君、今月の数字、まだ目標に届いてないぞ」営業所の会議室。グラフと数字を並べた資料を前に、上司の声が響いた。「抗生物質は横ばいや。もっと処方を取れるように働きかけんと」言葉は理解できても、胸の奥は冷えていくばかりだった。患者の声は聞こ...
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第14話『数字の向こうに』

営業所に戻ると、机の上には報告書の山が待っていた。今日訪問した病院名、担当医、面談時間、そして――処方数。パソコンの画面には棒グラフが並び、赤い線が「目標」を示している。「ここを越えんと、評価はされへんぞ」先輩がコーヒーを片手に言う。「患者...
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第13話『初めての処方箋』

大学を卒業して、ぼくはある製薬メーカーに就職した。配属先は“病院まわり”を担当する営業、いわゆるMR。新しい肩書きにまだ慣れないまま、研修を終えて初めて現場に出る日が来た。「本日から病院まわりに出てもらうからな」先輩が分厚い資料を手渡してく...
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第12話『道に迷う日、心に迷う日』

大学の講義室。周りの席からは「国家試験」「内定」「研修」…そんな単語ばかりが飛び交っていた。みんな、もう“どこで何をするか”を決めているようやった。ぼくはノートの端に、また薬草の名前を書いていた。シャクヤク、カンゾウ、ケイヒ…。授業内容とは...
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第11話『バイクで走る風の中で』

梅田のネオンが、まだ青白く瞬く夜明け前。バイクのエンジンをかけると、冬の空気が肺の奥まで刺さった。守口から天満橋、北浜へ。ビルの間を抜ける風が、目を覚まさせる。大学進学を目前に、胸はまだ定まらないままやった。友達は夢や資格の話で盛り上がって...
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第10話『さよなら、おばあちゃん』

「こつめ、ちょっと来てくれるか?」そう言われて、ぼくは薬棚の整理を途中でやめた。いつもの声。いつもの調子。でも、何かが違った。縁側に、おばあちゃんが座っていた。畳に映る影が、いつもより細くて、頼りない。「こつめ。あんた、よう手ぇ動かすように...
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第9話『“漢方家”ってどんなひと?』

「こつめ、ちょっとこっち来て手ぇ貸して。」店の奥で、おばあちゃんが漢方棚の引き出しを一つずつ開けながら、何かを探していた。「今日はな、昔のお客さんが久しぶりに来はるんよ。ちょっと特別な調合や。」ここは、大阪の下町にある小さな薬店──『漢方の...
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第8話『あんたの“血”、ちゃんとめぐってる?』

その日は雨上がりの午後やった。湿った風が流れこむ店の奥で、こつめ少年は棚の整理をしていた。「おばあちゃん、お湯わいたでー」返事がない。⸻奥の間に目を向けると、おばあちゃんが椅子に腰かけ、胸を押さえて静かに目を閉じていた。「……だいじょうぶ?...
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第7話『薬の名前って、むずかしい?』

「……かっこんとう。ほちゅう…えっきとう。あれ? なんやったっけ?」こつめ少年は、棚の前で首をかしげていた。漢方の袋には、漢字ばかりの難しそうな名前がずらり。どれがどれやら、さっぱりわからなくなってきた。「おばあちゃん、これとこれ、何がちゃ...