漢方小説第15話『転職の決意』 「こつめ君、今月の数字、まだ目標に届いてないぞ」営業所の会議室。グラフと数字を並べた資料を前に、上司の声が響いた。「抗生物質は横ばいや。もっと処方を取れるように働きかけんと」言葉は理解できても、胸の奥は冷えていくばかりだった。患者の声は聞こ... 2025.09.20漢方小説
漢方小説第14話『数字の向こうに』 営業所に戻ると、机の上には報告書の山が待っていた。今日訪問した病院名、担当医、面談時間、そして――処方数。パソコンの画面には棒グラフが並び、赤い線が「目標」を示している。「ここを越えんと、評価はされへんぞ」先輩がコーヒーを片手に言う。「患者... 2025.09.06漢方小説
漢方小説第9話『“漢方家”ってどんなひと?』 「こつめ、ちょっとこっち来て手ぇ貸して。」店の奥で、おばあちゃんが漢方棚の引き出しを一つずつ開けながら、何かを探していた。「今日はな、昔のお客さんが久しぶりに来はるんよ。ちょっと特別な調合や。」ここは、大阪の下町にある小さな薬店──『漢方の... 2025.07.13漢方小説
漢方小説第6話『補中益気湯ってどんな味?』 「今日はこれ、煎じてみぃ。」おばあちゃんが差し出したのは、茶色い紙袋。中には何種類もの草や根っこ、実のようなものがぎっしり入っていた。「これが…“ほちゅうえっきとう”ってやつか。」火鉢の上で煎じ始めると、湯気とともにふわっと、ほんのり甘くて... 2025.06.21漢方小説
漢方小説第5話『おまえはどんな“気”をしてる?』 春のはじまり。朝はまだひんやりするけれど、昼になるとぽかぽかと陽射しが差し込む。だけど、こつめ少年の表情は、いまひとつ冴えない。「……なんか、しんどいんや。」熱もない。咳も出ない。風邪じゃなさそう。でも、朝からぼーっとして、ご飯もあまり進ま... 2025.06.14漢方小説
漢方小説第4話『あんたの体質、冷えやな』 冬の朝。こつめ少年はマフラーに顔をうずめ、指先をこすりながら薬棚の隅で丸くなっていた。「さぶ…さぶすぎる……」火鉢に手を伸ばしても、足の先からはじんわり冷えが上がってくる。湯気の立つ薬湯がそばにあるのに、いまいち身体はあったまらない。それを... 2025.06.07漢方小説
漢方小説第3話『湯気のむこうの決意』 「さあ今日は、煎じるとこまでやってみぃ。」おばあちゃんが差し出したのは、土瓶と小さな火鉢。こつめ少年の目がぱちくりと大きくなる。「ボクが!?」「自分の手でやってこそ、ほんまの“漢方好き”になるんやで。」⸻緊張した面持ちで薬草を量り、水を入れ... 2025.05.31漢方小説
漢方小説第2話『漢方の棚は宝箱』 「これ、全部くすりなん…?」風邪が治って元気を取り戻したこつめ少年は、おばあちゃんの店の奥にある棚をじーっと見つめていました。色とりどりの瓶や紙袋、乾いた葉っぱに見えるものまで並ぶその棚は、こつめにとってまるで**“宝箱”**みたいに見えた... 2025.05.24漢方小説